2026年のイグ・ノーベル賞医学賞のニュースです。受賞対象となったのは、なんと1977年に日本で発表された「鼻のかみ方」についての論文でした。
研究をしたのは、耳鼻咽喉科医の海野徳二(うんの・とくじ)さん。 実は海野さんは2022年にすでに亡くなっており、 授賞式には門下生が代理で出席するという異例の展開になりました。
日常の何気ない動作に隠された驚きの科学的発見とは何だったのか。本記事では、海野徳二さんの人物像や経歴、そして受賞対象となった「鼻のかみ方」研究の全貌を分かりやすく解説します。
海野徳二は「鼻呼吸研究の第一人者」
海野徳二さんは、鼻呼吸や鼻の生理機能を専門にした耳鼻咽喉科医です。 旭川医科大学で耳鼻咽喉科学講座の初代教授を務めました。
- 専門は「鼻腔通気度」=鼻の中を空気がどう通るか
- 鼻づまりや鼻炎を、感覚ではなくデータで分析
- 呼吸・咳・くしゃみなど、体の”当たり前の動き”も研究対象
普段は誰も気にしない「息をする」「鼻をかむ」という動作。 それを真正面から科学した人、それが海野さんです。
すべての始まりは1977年の論文「鼻のかみ方」
海野さんの名前が半世紀後に脚光を浴びるきっかけとなったのが、 矢島洋さんとの共著論文「鼻のかみ方―擤鼻の気体動力学的研究―」です。 日本耳鼻咽喉科学会の会報に掲載されました。
何を調べたのか
研究対象は14〜48歳の男性15人。 鼻をかんだときの空気の速度・量、耳にかかる圧力を実際に測定しました。
- 片側だけかんだ場合と、両側同時にかんだ場合を比較
- 流量計を使い、気流のデータを数値化
- 外耳道内の圧力変化も同時に記録
「なんとなく」ではなく、機械で測って科学的に検証する。 この徹底ぶりこそが、後年高く評価されるポイントになりました。
正しい鼻のかみ方とは?
研究から導かれたのは、意外にもシンプルな答えでした。
- 左右同時に強くかむのはNG
- 通りやすい側を軽く押さえる
- 通りにくい側から、片方ずつ強く出す
片側集中で気流を強くする方が、効率よく鼻水を排出できる。 そんな身近な”コツ”が、データで裏付けられていたのです。
「鼻を強くかむと中耳炎になる」は本当?
研究では、耳への圧力変化も確認されました。 ただし論文では、強く鼻をかむこと自体が 中耳炎の直接的な原因になるケースは、まれだと指摘しています。
「鼻をかみすぎると耳が悪くなるかも」という漠然とした不安に対し、 一定の科学的な目安を示した点も注目ポイントです。
なぜ約50年後にイグ・ノーベル賞?
イグ・ノーベル賞は、笑えて、しかしよく考えると奥深い研究に贈られる賞です。 海野さんの論文も、まさにこの条件にぴったりでした。
- テーマは「鼻をかむ」という身近な行為
- それでいて、測定・分析は本格的な気体力学
- 半世紀を経ても色褪せない、実用的な結論
門下生である高原幹教授は、海野さんについてこう振り返っています。
「当たり前のことに真摯に向き合い、科学的解明に取り組んだ」
まさにこの姿勢が、時代を超えて評価された理由と言えそうです。
海野徳二さんはどんな経歴だった?学歴から教授就任まで
研究者としての顔だけでなく、教育者としての功績も見逃せません。
- 1933年3月生まれ、東京都出身
- 千葉大学医学部を卒業
- 同大学の耳鼻咽喉科学教室で研鑽
- 和歌山県立医科大学で助教授を歴任
- 1976年10月、旭川医科大学 耳鼻咽喉科学講座の初代教授に就任
ゼロから教室を立ち上げた”開拓者”
旭川医科大学の耳鼻咽喉科は、海野さんの着任からスタートしました。 少人数だった教室は、その後多くの医師を輩出する規模に成長。 道北・道東エリアの耳鼻咽喉科医療を支える人材育成にもつながりました。
研究者としての主な実績
- 1988〜1990年:パーセント表示型鼻腔通気度計の試作
- 1992年:日本耳鼻咽喉科学会総会で「鼻呼吸障害の解析と機能回復」を宿題報告
- 1993〜1994年:アクスティックライノメトリーによる鼻粘膜研究
- 1998年3月:旭川医科大学を定年退職
- 同年4月:旭川医科大学名誉教授に
さらに北海道医師会賞、北海道知事賞も受賞しており、 地域医療への貢献も高く評価されています。
没後に届いた栄誉――ドラマのような受賞劇
海野さんは2022年8月、89歳でこの世を去りました。 しかしその4年後、思いがけない形で世界から注目を浴びることになります。
2026年、イグ・ノーベル賞医学賞に選出された1977年の論文。 授賞式には、海野さんの教えを受けた高原幹教授が代理で登壇しました。
研究者本人はすでにいない。 それでも研究そのものは、しっかりと生き続けていた——。 そんな余韻を残す受賞劇となりました。
まとめ:「当たり前」を疑う目が、半世紀後の栄誉に
海野徳二さんは、鼻呼吸という誰もが気にしないテーマに、 本気で向き合い続けた研究者でした。
- 旭川医科大学 耳鼻咽喉科学講座の初代教授
- 鼻腔通気度など「鼻の生理学」の先駆者
- 1977年の「鼻のかみ方」研究が2026年イグ・ノーベル賞に
派手さはなくても、日常の「なぜ?」を突き詰める姿勢。 それが半世紀の時を超えて、世界に認められた理由なのかもしれません。 あなたも今日、鼻をかむときにふと思い出してみてはいかがでしょうか。


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