この記事の結論と解決できること
結論:マンションでの犬の鳴き声問題は、直接対峙を避け「事実の記録 → 管理会社(管理組合)への客観的相談 → 段階的エスカレーション」で解決を図ることが基本です。
生活騒音は法律で一律規制されていないため、まずは管理規約に基づく管理側ルートと当事者間の配慮・話し合いでの解決が公的方針とされています。
この記事で得られるもの
- ✅ すぐに使える記録テンプレート
- ✅ 管理会社への連絡文テンプレート(丁寧版・強め版)
- ✅ 改善しない場合の第二段階対応方法
- ✅ トラブル悪化を防ぐNG行為と適切な表現
免責事項:本記事は一般的な対処法の解説です。受忍限度の該当性など最終的な法的判断はケースごとに異なります。必要に応じて専門家・公的相談機関をご利用ください。
最初にやるべきこと|状況を客観的に記録する
なぜ記録が重要なのか
感情的な苦情ではなく、事実に基づいた相談として管理会社に伝えるためです。短期間でも構わないので、以下の要素を記録しましょう。
参考情報:自治体の公的資料では、犬の鳴き声は約90dB程度とされています(状況により変動)。
環境基準について理解しておくべきこと
環境基準は環境基本法に基づく屋外環境の評価指標であり、住居内の生活騒音に直接適用される法的基準ではありません。
- 住居系地域の目安:昼間55dB以下/夜間45dB以下
- 屋内での目安:昼間45dB以下/夜間40dB以下
これらは「望ましい値」として参考情報に留め、断定的な判断材料としては使用しないことが安全です。
記録テンプレート(そのまま使用可能)
【騒音記録シート】
記録期間:○年○月○日〜○年○月○日
■ 発生状況
時間帯:例)22:00〜1:00(夜間帯)
頻度:例)1時間に3〜5回
継続時間:例)各回2〜10分程度
発生パターン:例)断続的/連続的
■ 生活への影響
睡眠:例)就寝妨害、夜中に目が覚める
仕事:例)在宅勤務中の会議に支障
その他:例)家族の体調への影響
■ 音の特徴
性状:例)甲高い鳴き声/低い唸り声
聞こえ方:例)窓を閉めても聞こえる
比較目安:例)テレビの音量以上/普通の会話が聞き取りにくい
■ 居住環境
聞こえる部屋:例)寝室/リビング
窓の状態:例)閉めている/開けている
記録のコツ
- スマートフォンでの簡易計測は参考値として十分
- より正確な測定が必要な場合、自治体の騒音計貸出制度を活用(例:豊橋市では無料で1週間貸出)
- 可能であれば録音・録画も有効(個人情報の取り扱いに注意)
管理会社への初回連絡方法
基本方針
事実のみを客観的に伝え、特定・断定表現は避けることが重要です。「共有部掲示による周知・注意喚起」など、管理会社が対応しやすい具体的な是正措置を依頼します。
法的根拠:マンションでは管理規約・使用細則に基づき、理事会・管理会社が是正措置を講じる枠組みが整備されています。標準管理規約では、苦情申出後の改善勧告、不履行時の飼育禁止を含む措置が例示されています。
丁寧版テンプレート(そのまま使用可能)
件名:犬の鳴き声に関するご相談(○○棟○階・○号室)
○○管理会社 ご担当者様
いつもお世話になっております。
○○棟○階○号室の○○と申します。
下記期間において、犬の鳴き声による生活への影響が続いており、
ご相談させていただきたく連絡いたしました。
【記録概要】
・期間:○月○日〜○月○日
・時間帯:22:00〜1:00頃(主に夜間)
・頻度:1時間に数回、各2〜10分程度
・影響:就寝妨害により翌日の体調に支障
【お願い事項】
つきましては、管理規約・使用細則の範囲内で、
以下のご対応をご検討いただけますでしょうか。
1. 共有部掲示による注意喚起
2. 全戸配布文書での周知
3. 必要に応じて理事会でのご検討
なお、私の個人特定については、可能な範囲で
配慮いただけると幸いです。
詳細な記録については、必要でしたら
提出させていただきます。
ご検討のほど、よろしくお願いいたします。
○○(氏名・連絡先)
改善しない場合の段階的対応
二回目の連絡(やや強め版)
初回対応から2〜3週間経過しても改善が見られない場合の連絡例:
件名:犬の鳴き声の件・追加ご相談(○○棟○階・○号室)
○○管理会社 ご担当者様
先日はご対応いただき、ありがとうございました。
その後の状況ですが、○月○日〜○月○日の期間も
同様の状況が継続しており、夜間の睡眠への影響が
改善されておりません。
つきましては、下記の追加対応をご検討いただけますでしょうか。
1. 理事会での本格的な検討・協議
2. 管理組合としての正式な改善要請
3. 掲示による再度の注意喚起
個人特定の回避については、引き続き
ご配慮いただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
エスカレーション対応の段階と目安
第1段階:管理組合・理事会の関与
- 時期:管理会社対応から1〜2ヶ月経過後
- 内容:理事会での正式議題として検討依頼
- 根拠:標準管理規約では改善勧告に従わない場合、飼育禁止を含む措置が可能とされています
第2段階:自治体の生活騒音窓口
- 対象:市区町村の環境課・生活衛生課等
- 注意点:生活騒音は原則として当事者間の話し合い・管理側での解決が推奨されます
- 期待できる支援:相談・助言、必要に応じて仲裁
第3段階:ADR(公害紛争処理制度)
- 適用時期:問題が長期化・複雑化した場合
- 実施機関:都道府県の公害審査会、公害等調整委員会
- 手続き:あっせん→調停→仲裁の順で対応
- 費用:比較的低額(一般的な民事調停より安価)
第4段階:警察相談ダイヤル(#9110)
- 対象:110番ほどの緊急性はないが、トラブルが深刻化している場合
- 提供される支援:相談・助言、必要に応じて関係機関の紹介
トラブル悪化を防ぐNG行為と適切な表現
絶対に避けるべき行為
| NG行為 | 理由 | 法的リスク |
|---|---|---|
| 玄関・ポストへの直接的な張り紙 | 威圧的行為と捉えられる可能性 | 脅迫・嫌がらせと判断される場合あり |
| 深夜・早朝の直接訪問 | 相手を追い詰める行為 | 住居侵入・迷惑行為に該当する可能性 |
| SNS等での特定・公開 | プライバシー侵害・名誉毀損 | 民事・刑事両方のリスク |
| 大音量での報復行為 | 騒音の悪化 | 同様の苦情対象となる |
効果的な代替表現(そのまま使用可能)
感情的表現 → 客観的表現
- ❌「非常識で迷惑」→ ⭕「生活への影響が続いています」
- ❌「今すぐ何とかしろ」→ ⭕「段階的な改善策をご検討いただけますか」
- ❌「犬を黙らせろ」→ ⭕「時間帯への配慮をお願いできればと思います」
要求的表現 → 相談的表現
- ❌「責任を取れ」→ ⭕「管理規約の範囲での対応をお願いします」
- ❌「すぐに解決しろ」→ ⭕「可能な範囲での改善策を検討していただけますか」
よくある質問(FAQ)
- 完全匿名で苦情を伝えることはできますか?
-
管理方式や事案の性質によって異なります。完全匿名を保証できないケースもありますが、実務上は苦情者の特定を避けた形での全体周知が行われることが多いです。まずは匿名希望を明確に伝えてください。
- 録音・録画は必ず必要ですか?
-
必須ではありませんが、客観的な事実確認に有効です。より正確な測定が必要な場合は、自治体の騒音計貸出制度(例:豊橋市では無料で1週間貸出)の利用を検討してください。
- 夜間や休日のみうるさい場合の対処法は?
-
時間帯を詳細に記録することが重要です。環境基準は生活騒音の直接的基準ではありませんが、夜間の静穏性への配慮など、判断材料としての参考になります。
- 管理会社が対応してくれない場合はどうすればよいですか?
-
以下の順序で段階的に対応を検討してください:
- 理事会への直接相談・議題化の依頼
- 自治体の生活騒音相談窓口への相談
- 長期化する場合はADR(公害紛争処理制度)の検討
- トラブルが深刻化した場合は#9110への相談
- 法的措置を検討する目安はありますか?
-
受忍限度(我慢すべき範囲)は、騒音の程度・時間帯・頻度・地域性・加害者の配慮状況などを総合的に判断するため、数値だけでは決まりません。長期間の記録と専門家(弁護士等)への相談が必要です。
まとめ|今すぐできる3つのアクション
1. 記録開始(1週間程度)
- 時間帯・頻度・継続時間・生活への影響を客観的に記録
- 提供したテンプレートを活用して事実を整理
2. 管理会社への相談
- 丁寧版テンプレートを使用して客観的に状況を報告
- 管理規約・使用細則の範囲での対応を具体的に依頼
- 個人特定の回避を希望する旨を明記
3. 段階的エスカレーションの準備
- 改善が見られない場合:理事会関与・追加掲示を依頼
- 長期化する場合:自治体窓口→ADR→#9110の順で検討
- 各段階で適切な記録と客観的な事実を整理
重要な心構え
- 感情的対応は避け、常に客観的事実に基づいて行動
- 段階的アプローチで、まずは話し合いでの解決を目指す
- 必要に応じて公的機関・専門家への相談を活用
参考情報
環境・騒音関連
- 環境省『騒音に係る環境基準について』 – 地域区分別基準値
- 環境省『互いの思いやりで騒音のない社会を』 – 生活騒音対策パンフレット
マンション管理関連
- 国土交通省『マンション標準管理規約』 – ペット飼育関連規約
- e-Gov『区分所有法』 – 共同利益に反する行為の禁止(第6条)
相談・紛争解決
- 公害等調整委員会 – ADR制度の詳細
- 政府広報オンライン『警察相談ダイヤル#9110』 – 非緊急時の相談窓口
自治体事例
- 豊橋市『騒音計貸出制度』 – 無料1週間貸出
- 札幌市『生活騒音について』 – 当事者間解決の推奨
※2025年9月26日時点の情報に基づいています。制度や手続きは変更される場合がありますので、最新情報は各公式サイトでご確認ください。


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