脳の活動を傷つけることなく画像化できるfMRI(機能的磁気共鳴画像法)は、現代の医療や脳科学に欠かせない検査技術です。この画期的な技術の土台となる原理を発見したのが、日本の物理学者・小川誠二(おがわ せいじ)さんです。
小川さんは東京大学を卒業後、アメリカの第一線で研究を重ね、血液中の酸素変化を手がかりにする「BOLD法」を確立しました。
この記事では、小川誠二さんの学歴や異色の経歴をはじめ、fMRI誕生につながった偶然の発見、そして2025年の日本学士院賞受賞を含む現在の活動まで、分かりやすく整理してお伝えします。
小川誠二の学歴と経歴:企業勤務からアメリカでの異分野挑戦へ
小川誠二さんは東京大学工学部を卒業後、企業勤務を経て渡米し、スタンフォード大学で博士号を取得しました。最初から脳科学を目指していたわけではなく、複数の専門分野を渡り歩いた経験が後の大発見へと結実しています。
- 生年月日:1934年1月19日生まれ(東京都出身)
- 出身高校:東京都立上野高等学校
- 大学:東京大学 工学部 応用物理学科 卒業(1957年)
- 大学院:スタンフォード大学大学院 修了(1967年にPh.D.取得)
大学卒業後は大日本紡績株式会社に入社し、当時注目されていた原子力の平和利用に関する放射線化学の研究に携わりました。
しかし、新たな研究分野への挑戦を志した小川さんは、自ら手紙を送って1962年にアメリカのメロン研究所へ移籍します。電子スピン共鳴(ESR)を用いた放射線化学の研究実績を積んだ後、スタンフォード大学大学院へと進みました。
指導教官であるハーデン・M・マコーネル氏のもとで生物物理学を学び、スピンラベリング技術などを習得した経験は、のちのヘモグロビン研究やMRI研究の大きな礎となりました。
fMRI誕生の経緯:マウス実験の異変から生まれた「BOLD法」
fMRIの根幹をなす「BOLD法(血中酸素濃度依存性コントラスト法)」は、マウスの脳をMRI撮影していた際に生じた偶然の現象から発見されました。
当時、名門ベル研究所に所属していた小川さんは、1980年代後半にマウスの脳を高分解能MRIで撮影する実験を進めていました。ある日、画像の中に原因不明の「暗い線」が現れます。
単なる機械の故障を疑いましたが、実験を観察する中で重要な手がかりを見出しました。
- 酸欠状態での変化:マウスが酸欠に陥ると、暗い線が濃く変化する
- 酸素供給による消失:酸素を十分に与えると、その影が消える
- 原理の解明:酸素を失った「脱酸素ヘモグロビン」が磁場を乱し、コントラストを生み出していることを特定
小川さんはこの現象をBOLDコントラストと命名し、1990年に動物実験でその有効性を発表しました。
さらに1992年、ミネソタ大学のカミル・ウグルビル氏らとの共同研究により、生きた人間の脳活動をリアルタイムに画像化することに世界で初めて成功しました。頭を開かずに脳の働きを可視化する技術は、世界中の医学・心理学・脳科学の現場へ急速に普及していくことになります。
小川誠二の現在:2025年日本学士院賞の受賞とさらなる高精度化への挑戦
小川誠二さんは90代を迎えた現在も東北福祉大学の特別栄誉教授などを務め、fMRIの精度を極限まで高める第一線の研究を続けています。
主な役職
- 東北福祉大学 特別栄誉教授
- 脳情報通信融合研究センター(CiNet)招聘専門員
- 量子科学技術研究開発機構(QST)名誉フェロー
- 名古屋大学 脳とこころの研究センター 客員教授
2025年に恩賜賞・日本学士院賞を受賞
2025年には、日本の学術賞として最高峰である恩賜賞・日本学士院賞を受賞しました。授賞理由は「機能的磁気共鳴画像法の基本原理の発見及び脳科学への展開」です。同年6月の授賞式では、自ら天皇陛下へ研究成果をご説明されたことでも注目を集めました。
小川さんは「血流反応を追うfMRIには、ごくわずかな時間差(遅れ)が生じる」という限界を客観的に見据えつつ、現在は超高分解能の「fast fMRI」測定法や、ノイズとなる生理的信号を分離する技術の開発に取り組んでいます。
まとめ
小川誠二さんは、工学から放射線化学、生物物理学へと視野を広げた柔軟な研究姿勢によって、脳科学に革命をもたらした世界的な研究者です。
- 異分野の横断:企業勤務から渡米し、ヘモグロビンの性質を深く理解したことが大発見の土台となった
- BOLD法の確立:実験中の異変を見逃さず、血中酸素の変化から脳活動を捉える原理を発見した
- 現在も現役:2025年に恩賜賞・日本学士院賞を受賞し、今なおfMRIの限界を超える研究に挑み続けている
偶然の画像ノイズを大発見へと変えた小川さんの探求心は、今もなお脳の未知なる領域を照らし続けています。


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