坂口志文が創ったベンチャー「レグセル」とは?研究を医療に届ける挑戦

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ノーベル賞受賞者・坂口志文氏の研究を基盤としたバイオベンチャー「レグセル」の記事アイキャッチ画像。紫と青のグラデーション背景に研究と医療をつなぐアイコンが配置され、基礎研究を社会実装する挑戦を表現している。
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2025年のノーベル生理学・医学賞は、末梢免疫寛容(制御性T細胞を含む概念)の発見と機序解明により、Mary E. Brunkow、Frederick J. Ramsdell、坂口志文の3名に授与されました。

受賞者の一人・坂口志文氏の研究を基盤に、2016年に大学発ベンチャー「レグセル(RegCell, Inc./レグセル株式会社)」が設立されました。研究室での発見を、患者が実際に受け取れる治療へと橋渡しすることが設立の目的です。

本記事では、第一線の研究がなぜ起業という形で社会実装を目指すのか、その必然性と現在の取り組みを一次情報に基づいて解説します。

目次
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レグセルとは何をしている会社か

レグセルは2016年設立の大学発ベンチャーで、制御性T細胞(Treg)を用いた免疫細胞治療の臨床応用を目指しています。主な対象領域は自己免疫疾患や移植関連疾患です。

同社のリード品「RegPD-101」は、S/F-Epigen Tregと呼ばれる”自家・抗原特異的”の再プログラミングTreg技術に基づいています。この技術は非遺伝子改変として説明されており、患者自身の細胞を用いて病因抗原へ選択的に作用する点が特徴です。

全身の免疫を抑え込むのではなく、病気の原因となる特定の免疫反応にのみ「ブレーキをかける」治療コンセプトを掲げています。

なぜ研究成果を”起業”で届けるのか

基礎研究を社会実装する難しさ

内閣府の資料では、社会実装を「生み出された新たな価値を普及・定着させる」プロセスと定義しています。基礎研究から実証、事業化、そして普及へと至る道のりでは、規制対応・資金調達・人材確保・製造体制の整備を同時並行で進める必要があります。

この過程にはしばしば「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」と呼ばれる難所が存在します。魔の川は研究から開発への移行、死の谷は開発から事業化への移行、ダーウィンの海は事業化から市場での普及を指す障壁です。

アカデミア単独でこれらを乗り越えることは困難であり、企業という法人格で経営資源を束ね、社会実装を推進する体制が求められます。これが研究者起業の合理性といえるでしょう。

坂口志文氏が起業を選んだ理由

結論として、研究成果を社会に届けるためです。

レグセルの投資家である東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)は、投資先紹介ページで「坂口氏の研究成果で社会に貢献すべく起業」と明記しています。

さらにレグセルは2025年、米国本社化と大型資金調達を完了し、初回臨床試験(FIH:First-in-Human)を開始する計画を公表しました。規制・資本・人材・スピードを総動員して、ベンチからベッドサイドへ最短でつなぐ戦略が示されています。

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レグセルの現在地と臨床への道筋

米国本社化と大型資金調達(2025年3月)

レグセルは2025年3月18日、総額45.8百万ドルの資金調達と米国本社化の完了を発表しました。内訳はシードラウンドで8.5百万ドル、日本医療研究開発機構(AMED)からの支援として最大37.3百万ドルです。

この資金は、臨床試験の開始と製造体制の構築に充てられる計画となっています。米国本社化により、規制対応の迅速化と国際的な人材確保を進める狙いがあります。

製造・治験体制の整備(2025年5月)

2025年5月には、米国のCRDMO(Contract Research, Development and Manufacturing Organization)であるGeneFabとの戦略提携を発表しました。

この提携により、技術移管からIND(新薬臨床試験開始申請)支援、GMP基準での製造までを一気通貫で進める体制が整いました。日本の研究拠点から米国の製造拠点への技術移管と、臨床試験用の製品製造が進められています。

2025年FIH開始に向けた準備

レグセルは2025年に初回臨床試験(FIH)を開始する計画を公表しています。ただし、最終的な対象疾患については、今後の公式開示に依存します。業界メディアでは「自己免疫性肝疾患」などの表現が見られますが、本記事では公式発表の粒度に準拠しています。

資金・製造・規制対応の各要素が揃い、基礎研究から臨床応用への橋渡しが具体的な段階に入ったといえるでしょう。

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まとめ:ノーベル賞研究を患者に届けるために

制御性T細胞(Treg)研究の社会実装というゴールに向けて、坂口志文氏の研究を基盤としたレグセルは、アカデミアの発見を企業の実行力で臨床へつなぐ道を選びました。

2016年の創業から、米国本社化、大型資金調達、製造提携へと段階的に進み、「患者に届く治療」を実現するための要件を整えています。

2025年の初回臨床試験開始計画の達成と、その先の実用化スケールが次の焦点です。基礎研究の成果が実際の医療として患者のもとへ届くまでの道のりは長いものの、レグセルはその橋渡しを着実に進めています。

■ 出典(主要一次情報/2025年10月9日時点)

  • NobelPrize.org:2025年ノーベル生理学・医学賞の受賞者(Mary E. Brunkow、Frederick J. Ramsdell、坂口志文)および受賞理由(末梢免疫寛容の発見と機序解明)
  • 京都大学イノベーションキャピタル株式会社:レグセルの事業概要、RegPD-101およびS/F-Epigen Treg技術の説明、大学発ベンチャーとしての位置付け
  • 東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)投資先ページ:起業の発端(「坂口氏の研究成果で社会に貢献すべく起業」)
  • PR Newswire(RegCell公式発表):総額45.8百万ドルの資金調達(シード8.5百万ドル+AMED最大37.3百万ドル)、米国本社化の完了、2025年FIH開始計画
  • GeneFab/Clinical Research News:GeneFabとの戦略提携内容(技術移管、IND支援、GMP製造)
  • 内閣府(総合科学技術・イノベーション会議):社会実装の定義(「生み出された新たな価値を普及・定着させる」)
  • 文部科学省:「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」の概念説明
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